「嫌な患者」にどう向き合ってますか?:陰性感情とわたりあう
こんにちは、Dr. Racyです。
日々患者に向き合う仕事をしている医療従事者のみなさん。「嫌な患者」、いますよね。
「嫌な感情」を「陰性感情」と呼びましょう。プロフェッショナルとして、どう対応していますか?
先日、面白い本を読みましたので内容を簡単に共有しつつ考えてみましょう。
「陰性感情」って?
- いつも対応に困る要求をしてくる
- 説明しても説明しても怒っている
- 説明しても説明しても危険行動
- いつも不信感をあらわにしている
- 暴言・卑猥な発言を繰り返している
いますよね。います。医療現場にいれば嫌でも出会います。
それでも最善の医療を提供しなければならないのがプロフェッショナルです。どのように対応したらよいのでしょうか。
国立国際医療研究センター病院精神科の加藤温先生が『診察室の陰性感情』という本を金芳堂から出版されています。
陰性感情はなぜ発生するのか、なぜ問題なのか、どう乗りこなせばよいのか方針を示しています。見ていきましょう。
陰性感情はなぜ発生するのか
陰性感情は患者にも医療者にも発生する可能性があります。
患者側の要因
統合失調症をはじめとする精神疾患による幻覚・妄想状態の患者さんを見ると「うっ」となってしまう方も多いかと思います。これはおそらく「理解不可能」であることによる恐怖や不安が大きいのではないでしょうか。
それとは別にもともと他人に対して強権的だったり、怒りっぽかったり、イライラしていたり、医療者を利用しようと考えたりといった性格・パーソナリティの問題で医療者が陰性感情を抱くことはあります。
前者の方が激しそうには見えるのですが、加藤先生によると後者の方が対応に苦慮する場面が多いそうです。精神疾患は「疾患」であるがゆえに「病気の症状」として対応できますが後者は尊重しなければならない「個性」のような範疇に入ってしまうからかもしれません。
医療者側の要因
清潔であってほしい、また親身であってほしい医療者が不潔だったり尊大だったりすると誰しもイラっとしますよね。
また睡眠不足で疲労がたまっていたり、家庭内のいざこざを抱えていたりすると患者の些細な言動でイライラしてしまうのも納得だと思います。
環境要因
温度や湿度が適切に保たれていない環境では医療者も患者もイライラします。
陰性感情の何が問題なのか
「別に患者を嫌がっても患者に嫌がられてもそのままでいいのでは?」と思った人はいませんか?
感情一つで医療が変わる可能性だってあるんです。
医療の場が硬直化する
「嫌だなあ」と思っている相手と話さないといけないので医療者と患者の関係が緊張してしまいます。
これではアドヒアランス(頑張って病気を治すぞ!という気持ち)が低下してしまいますね。
医療過誤のリスクになる
Visceral bias(本能的バイアス):イライラしているとそれだけで判断が鈍ってしまいます。
Confirmation bias(確証バイアス):早く診療を終わらせたい!→この病気に決まってる!→なんか矛盾する検査値あるけどいっか!
Premature closure(早期閉鎖):早く診療終わらせたい!→検査結果全部出てないけど多分この病気だからそれで!
Psych-out error(精神疾患を遠ざけるエラー):「こんな患者どうせ精神疾患だろ!」→精神症状をきたす身体疾患を見逃す(抗NMDA受容体脳炎, 橋本脳症, etc.)
陰性感情を放置していると時に重大な結果を招くかもしれませんよ?
陰性感情は「消す」のではなく「乗りこなす」
医療者も人間なので、陰性感情を持つこと自体は悪いことではありません。医療マシーンではないのです。
加藤先生は患者と話すうえで重要な「四つの眼」を指摘しています。
- 医師が患者を見る眼:通常の視点
- 医師が自己の内面をみる眼:「あっ今自分はこの患者に好意/嫌悪感を持っている!」
- 患者が医師をみる眼:「今この患者に自分はどのように見えているんだろう?」
- 診療の場全体を俯瞰する眼:診察室・病室の場全体を俯瞰する視点
私見ですが、第一の「医師が患者を見る眼」だけしか持ち合わせていないと「嫌な患者」に出会ったときに陰性感情の渦に飲み込まれやすいです。
常に自分を俯瞰する視点を持つことが重要でしょう。
これは問題の根本的な解決にはなりません。しかしながら「俯瞰する」だけで「少し冷静になる」助けにはなるのではないでしょうか。
陰性感情そのものを俯瞰する冷静な、理性的な眼を養っていきたいものです。
コミュニケーション技術を磨く
医療者自身の技術不足で医療者・患者双方の陰性感情を招くのは避けたいものです。
人、特に病む人と対峙する職業である以上、普通の人よりコミュニケーションスキルが求められるのは当然と言えるでしょう。
病院でのコミュニケーションというと患者が医療者を向き、医療者が患者を向く、といった構図を考えがちですが、特に共感や傾聴に関する加藤先生の考え方の一つは「三角形の構図」です。
すなわち、「解決すべき問題」に対して患者と医療者が平行に近い視線で向いている、という構図です。問題を頂点とする長い二等辺三角形を思い浮かべてください。
この「一緒に同じ道を同じ方向にやっていく」という姿勢が有用なのではないかと書いていました。
みなさんも普段の業務で少し意識してみるのはどうでしょうか。
まとめ
医療現場における陰性感情のメカニズム、対処法などについて書籍の内容をもとにして解説しました。
ここで紹介した内容は書籍のほんの一部であり、私の解釈など多く入っています。
気になった方はぜひ書籍を手に取ってみてください。とても柔らかい文体で書かれているのですいすい読めること間違いなしです。
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